「うん、高校卒業したときから付き合ってるの
さよちゃんには、ずっと話したかったけど
珪くんのお仕事の都合もあって、黙っててごめんね」
さよちゃんの問いかけに、これ以上嘘をつく必要はない
私自身も親友にくらい、ちゃんと珪くんの事を話しておきたい
そんな気持ちから、素直にこう話すことが出来た
さよちゃんは、何度も「うんうん」そう言って頷いて
「ちゃんと話してくれてよかったよ〜
私はね、もしかしては男嫌いかなぁ〜とか
それとも、金城くんのこと好きなのに私に遠慮してるのかなとか
いろんなこと今まで考えてた」
「え〜!金城くんのこと?そんなこと考えてたの?」
「うん、だって金城くん格好いいでしょ」
さよちゃんは「ぽっ」っと頬を染めた
そんな風に照れながらも
大好きな彼のことを格好いいと言えるさよちゃんが私はとっても好き
「さよちゃんの大好きな人横取りしようなんて思わないよ〜もう、心配しすぎ」
「あはは、横取りしようとしても横取りさせないもん、絶対負けない!」
私たちはお互いの顔を見合わせてゲラゲラと笑ってしまった
女同士ってとっても不思議
一つの切っ掛けでさらに連帯感をもてるんだって思う
「それにしても、、レベル高いよね
今までどんな男に言い寄られても、全然興味なしって顔してたけど
そりゃあ、そうよ、あの彼氏なら、ねぇ〜」
「そんな、レベル高いというかなんというか」
レベルが高いのか〜
私、自分の友達に珪くん紹介したことってなかったから
なんだか、くすぐったくてちょっと気分がいいかも
「でも、葉月くんって無口でしょ?いつも何話してるの?」
「ああ見えてね、本当に変なこと言い出す人なんだよね
さっきも言ったけど、ダジャレを言うのが好きなのよ
それにね、いつもボーっとしてるのに、急に一人で笑ってたりするし」
「あはは、怪しいひとじゃん、それじゃ〜」
「そうなの、怪しいし、すごく・・・」
「うんうん、すごく?」
「あ・・・・、その」
すごく、そう言い掛けて私はその次の言葉をぐっとおさえた
だって『すごくエッチなの』って言ったら、私もエッチなことしてるってことで
それは、この場面で言う話しじゃなくて
やぁ〜ん、もうどうしよう
「?顔が真っ赤だけど、大丈夫?熱出た?」
「うん、熱出た出た」
さよちゃんにおでこをぺちぺち叩かれて、私は何とかごまかした
でもいつか、さよちゃんも金城くんと付き合えるようになったら
いろんなこと、たくさん相談したり、時々はのろけたりしたい、なんてことを考えたりする
ひとしきり笑いあって、ふと壁の時計を見るともう5時を過ぎていた
珪くんと金城くん、トイレに行ってから随分経つ気がする
「さよちゃん、金城くんと珪くん遅くない?」
「そう言われてみれば、そうかもだけど、見に行ってみる?」
「え!男子トイレだよ!い、い、行ける訳ないじゃん」
「男子トイレってどんな感じなんだろう」
「さよちゃん、興味あるの?」
「興味って言うか、壁がブルーっぽいとか?」
「う〜ん、どうだろう・・・・?」
金城は俺の後ろに立っていた
何してるんだ・・・あいつ
そんなことをふと思ったけれど
まあ、気にも留めず俺はファスナーを下ろした
すると、金城は、俺の隣に立った
「なあ、葉月くん」
「ん?」
便所で話しかけられるのは初めてだ
まあ、別に気にすることでもなく・・・俺たちは並んで用を足す
「のこと、好きなんだろ?」
「・・・」
隣を見る
金城も俺を見ていた
手元が狂わないように気をつけながら、また俺は前へ向きなおした
「金城・・・っていったよな、おまえ」
「ああ、俺は、きんじょうかつおだ、おまえは?」
もう一度俺は、金城を見た
奴は嬉しそうにこっちを見ている
「俺は葉月珪・・・を好きだ」
「よし!好きなんだな、よっしゃー!」
「・・・金城、おまえ」
金城はこれ以上ないってくらいの笑顔で俺の肩をがっちりつかんだ
片手でモノを持ったまま空いた手で・・・って事が、少し気にかかった
俺たちが戻ると、女たちは待ちかねたように走り寄ってきた
がちょこちょこと走るさまは本当に可愛いと思う
でも、慌て者だから、こいつはよく転ぶんだよな
「珪くん、おトイレの壁って何色だった?」
「え?」
「壁の色、タイルの色だよ」
「ん・・・、忘れた」
「もぉ、思い出してー」
「無理だ、ごめん」
なぜトイレの壁の色なんだろう
何の話か見えないままに、俺はに謝った
「なあ、今日は4人で飲みに行こうぜ」
金城がそう切り出して、吉永が真っ先に「うん行こう、ね、行こうよ!」といった
はどうしようか少し迷ったみたいで、俺のほうを見上げた
俺は、何も言わずに頷いた
映画館を出るとまだ明けきらない梅雨特有のうっとおしさを感じた
夕方5時、あたりはまだ明るく、俺はサングラスをかけたまま歩いた
どこかで飲む
俺にとっては初めての経験だった
もちろん酒を飲むことは初めてじゃない
でも、外で飲もうと思ったことはないし
飲むとしても仕事の打ち上げで仕方なくだった
こうして街を歩いてみると、大学生でも気軽に飲めるような店は結構あるらしい
色とりどりの看板を眺めながら俺は3人の後ろを歩いている
本当ならと並んでのほうがいい
でも、それは今の状態では我慢しておこう
「おい、この店でいいか?」
立ち止まった3人が俺のほうを振り返る
いいかどうか俺にはわからないから、ただ頷いた
階段を下りて地下1階
その店は「肴や」という名前だった
入口で靴を脱いで下駄箱に入れ、俺たちは奥へ通された
この店はそれぞれのテーブルが、小座敷になっているらしい
その中は暖簾で見えなくなっている
これなら周りを気にすることなくサングラスを外せる
通された小さな部屋
四角いテーブルは掘りごたつみたいな形で、足を投げ出して座れるようになっていた
金城が一番先に座って、「さよりはここでいいだろ?」そういって自分の隣を指差す
吉永もまんざらいやでもなさそうに素直に隣に座った
もちろん空いたところにと俺が座ったわけだけど
尻の下に敷く座布団があんまりにも小さい
あってもなくてもいいような座布団に器用に座らなければいけない
そう思うと可笑しくてたまらなかった
見るもの見るもの、全部知らないものばかりで
俺はなんだか楽しかった
仕事の打ち上げで使うような店は、クラブのVIPルームだ
もちろん他の客からは遮断されているけれど、何も面白いと思えなかった
でも、こんな風な店ならまた来てもいい、そう思った
「じゃ、乾杯!」
ビールジョッキは外側が真っ白で、まるで凍っているようだった
そして見た目どおりビールはキンと冷えていた
黄金色の液体が喉を落ちてゆく、それが、こんなにうまいことを俺は知らなかった
目の前に出された食い物は、「おとおし」
中華料理屋で北京ダックなんかにくっついて出てきたりする
ピンク色のスナック菓子みたいなのだ
俺は知らなかったけど、「おとおし」って名前らしい
「珪くん、何か食べたいものある?」
「何を食ったらいいかわからないから、適当に」
「んっと、それじゃ・・・どうしようかな」
メニューを手にと吉永があれこれ注文をした
相変わらず俺は大して話もせずに
冷えたビールをぐいぐい飲んだ
しばらくしてテーブルにいろんなものが並んで、俺は適当に食ってみる
どの皿もなんて料理かもわからないけれど、どれを食ってもうまかった
でもひとつ、変な緑の野菜が入った炒め物を食ったら
「う・・・・苦い」
「え?あ〜、これってゴーヤだよ、ゴーヤチャンプルー」
今この店では「沖縄フェア」ってのをしていて
俺が食ったものは、ゴーヤってものだったらしい
「ゴーヤはこっちで食うとただ苦いだけだけど本当はもっとうまい」
「あ、そっか〜、金城くんは沖縄出身だもんね」
「ああ、ラフテーもソーキも奥深い味わいの料理なんだよ」
頷く女たちを前に金城は沖縄の話を始める
奴の表情は、今までにないくらい「情熱的」といっていいだろうか
沖縄の海やその土地ならではの料理のことを、文字通り熱く語った
自分の生まれ育った場所を、誇りに思っていることが俺にもわかった
俺は「らふてー」も「そーき」もどんな食い物なのか全くわからない
沖縄へは行ったことがあるけれど、それも撮影のためだけの旅だった
ホテルとビーチを往復してたった一泊しかしなかった
「いいなぁ、沖縄・・・」
吉永がうっとりした表情でつぶやいた
彼女の頭の中には、きっと青い海と白い砂浜が描かれているんだろう
「こないか?」
「え?こないかって、どこに?」
「沖縄だよ」
「沖縄〜っ?!」
女二人が驚いて顔を見合わせた
お、なかなかやるな
そんな風に思って、俺はまた冷えたビールを飲んだ
「俺はさよりを好きなんだ」
映画館のトイレで金城はそう俺に宣言した
今までにも、何度も吉永を誘おうとしてきたらしい
その努力は、半分は叶って半分は無理だった
それはなぜなのか・・・
「さよりを誘うと、必ず『が一緒ならいいよ』って言うんだ
俺はそれなら他にもう一人って思って、適当にクラスの男の名前を出すだろ
そうするとが『あ、それじゃパス』って言うんだ
今まで何度それでチャンスを逃してきたか、葉月くん、わかるか?」
金城は自分の努力と現状を話し続けた
「だから結局、俺はさよりとの三人で行動するしかなかったわけだ
もちろん、それはそれで楽しくもあるけど、な、わかるだろ」
俺は可笑しくてたまらなかった
がどんな大学生活を送っているのかはわからないけれど
あの持ち前の鈍感さは、一人の男をこんなに翻弄させていたのか
「で、今日も映画を観る観ないって騒いでるから、俺が一緒に行こうって言ったんだ
そうしたら、が『もう一人いるけどいいか』って言うだろ、マジで驚いた
もう一人女が増えたら大変だぞ俺は・・・って思ったんだ」
俺は金城の言葉に思わず「ぷっ」と笑ってしまった
そんな経緯があったとは・・・
それで、奴は俺を映画館の入口で見つけてジロジロ見るしかなかったわけだ
「でも、きてみたら、男だろ」
「で、俺に『同級生なんだろ』って聞いてきたわけか」
「ああ、がまさか男を呼んでるとは思わなかったし
おまえも相当苦労してを誘い出したってことだよな」
「ん?苦労してって・・・まあ」
「わかってるよ、お互い大変だよな
ともかく、これで俺たちはあの二人を誘う条件が揃ったってわけだ」
「え?」
「男同士協力しようぜ、な?
それから葉月くんってのは他人行儀だろ、珪って呼んでもいいか?」
そういって金城は嬉しそうに何度も俺の肩を叩いた
「いいところだ、本当に、な、来いよ、夏休みに」
「本気で言ってるの、金城くん?」
「ああ、さより、、二人がよければ」
え?
それはちょっと待て
吉永だけでいいんじゃないのか、金城?
「もちろん、葉月も」
ぶはっ
俺は飲んでいたビールを危うく噴出すところだった
金城は「熱い」視線を俺に送って目配せした
『二人を誘う』ってのは、こうして飲むことじゃなくて、沖縄だったのか・・・
沖縄・・・・いい場所だろう、それは認める
ただ、俺とは二人ではばたき市から2時間ほどの海辺の温泉へ旅行をすることになっていた
俺のスケジュールは、マネージャーに確認しなければわからないけれど、沖縄は・・・
「私、行きたい!」
吉永が、意を決したように言う
は・・・・・
next
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